天の華 7


 先生はオレを車に乗せ、学園から少し離れたところにあるスポーツジムに連れて行きました。
 そこは会員制の高級ジムでしたが、先生の顔ききの所であるらしく、先生が受付で2・3言何かを告げますとあっさりと中へ通されました。
 案内されたところは他のテニスコートからは隔離された2面のコートでした。オレたちは早速着替えてコートに入りました。先生はよく此処に打ちに来るそうで、ウェアやラケットは置いてあるようでした。

「サーブ権はやるよ」

 真新しいボールを2つオレに放って、先生は対角線上に構えました。
 正レギュ以上の腕前だと、先生は自分で言いました。しかし正直なところ、オレはその発言を全く信じてはおりませんでした。
 先生から見れば10近くも年下の子供ではありましょうが、中学テニスと言いましても氷帝の正レギュラーは、確実に全国トップクラスの選手たちばかりでしたので。それなりにテニスを齧った程度の大人では、易々と敵うものではないと思っておりました。
 それに、綺麗に筋肉は付いているようでしたが、先生からはテニスが強いという印象は受けませんでした。自分の方が上だろうと思いました。
 しかし相手が弱くあれ、一人で壁打ちをするよりは充分練習になると思いました。

「・・・ほな、いきます」

 オレはバックライン際に立つと、両足の位置を確認して、ボールを2・3度地面に弾ませました。
 そして高く、空に向かってトスを上げました。


   *  *


「腕鈍ってるんじゃないか?」

 ゲームが終わると、先生は少し乱れた息の下から言いました。
 対するオレはといいますと、先生が最後のポイントを決めて試合が終わるのと同時にコートにへたり込んでしまいました。仰向けに寝転がって腕を顔を覆い、ぜんぜいと肩で息を整えるオレは、全くの完敗でした。
 あんなに左右に走らされたのも、あんなにも一方的にゲームを支配されたのも初めてでした。
 とても信じられない気持ちでした。
 渾身の力を込めたファーストサーブを、低く構えた先生はスピードをものともせずに、オレの足下めがけてピンポイントで返してきました。
 それからも、フェイクをかけたつもりが逆に裏を突かれたり、地を這うようなサーブにエースを奪われたりと、3セットを終える頃にははっきりと力の差を思い知らされていました。

「でもまぁ、榊さんが声を掛けただけはある。正レギュ・・までは届かねぇかも知れないが、準レギュは確実だな」

 1年でこれだけ力あればいい線いくぞ、と先生は相変わらず楽しそうに言いました。
 そこで漸く、オレは腕を動かして先生を仰ぎ見ることが出来ました。うっすらと額にかいた汗が、高い天井から降り注ぐ照明にきらきら光っていました。

「せんせ・・・テニス、しとったん?」

 整わない呼吸の下から発した言葉は、多少の恨みがましさを含んでいたのでしょうか。
 先生は目を細めて意地悪に笑いました。

「初等部の頃に始めたから、もう15年になるな。中等部・高等部では正レギュだった」

 ちなみに大学でもスクールに通って続けていた、とのことでした。
 そこでオレは思い出しました。
 貸し出しカードに書かれた”跡部景吾”という名前をどこかで見覚えがあると感じたのは、テニス部に入部した際に配られた『部の歩み』と題されました冊子に、歴代の男子テニス部部長の一人として名前が上っていたからだったのでした。跡部先生が臨時教師として学園に訪れてから、テニス部の先輩達の会話の中にもその名が挙がっていたようにも思われました。

「・・・・・・反則や」
「あん?」

 小さな呟きでしたが、先生は聞き取ったようでした。

「テニス部やったんなら、言うてくれればええやないですか。 ・・・ほんまに」
「性格が悪いだろ?」
「・・・・・・」

 先生はオレの言葉尻を取って、よく言われるんだと言いました。

「知ってるもんだと思ってたけどな。結構な有名人だし」
「自分で言うことやないですよ。それに、10年も前のこと、生粋の氷帝人じゃなきゃ知らんです」
「・・・ああ、忍足は関西だったか」

 先生はふと、どこか遠くを見る目をしました。
 オレはどうしたんだろう、と不思議に思いましたがそれは一瞬のことで、先生はラケットをくるりと一つ回しますと、

「もうへばって動けないか?」

 あからさまにバカにした口調と眼差しでオレを見下ろしました。
 オレはすぐさま立ち上がると、そんなことはない、と噛み付くように返しました。
 これまで、オレにとってテニスは趣味の一つであり、殊更の情熱を注いではいませんでした。しかし先生に完敗して悔しい、と思えないほど手を抜いてきたわけではありませんでした。

「次は勝たしてもらいます」
「・・・おもしれぇ。ちっとは手ごたえ見せろ」

 見下すように挑発する蒼い目に射貫かれて、オレは今まで感じたことのない高揚感が沸き上がってくるのを覚えました。
 そしてまたサーブ権をもらったオレは、先ほどのゲームよりも更に力を込めて、腕を振り下ろしました。





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”Atobe SPORTGYM”です。
テニスについては書くつもり無かったのですが、どうしてもコレを入れたくて・・・(愛。)
忍足、情けないカンジですが、実際強いんですよ・・!(この設定上)
でも10も年上の跡部先生相手ということで・・こんなことに。。
(跡部先生は23、中坊忍足は13、という設定なんですよ〜)

051126



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