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拝啓 誰か知れない、この遺書じみたものを読んで下さる貴方様 こんにちは。 貴方がどのような方なのかは存知上げませんが、目を通して下さってありがとうございます。 ですが、もし貴方が非常に常識にうるさい方であるのならば、この遺書じみたものを読むのは止められる方が賢明です。きっと、貴方の理解に苦しむものであるでしょうから。 もし、それでも読むことを選ばれるのでしたら、お願いです、ここに書かれている事実、思考のそれらを真っ向から否定しないで頂きたい。 オレはオレの信じる想いに、生涯をかけたのです。 それを信じて追い求め、何が起ころうとも貫き通すことがオレの一生でした。 傍から見れば、なんと滑稽で莫迦らしく映るか知れません。ですがオレにはそれが全てで、オレがこの世に生きる理由も真実も、その想いの中にしか見出せなかったのです。 オレの一生は、ほとんどの時間が暗闇の中を彷徨っていたようでした。そこに浮かぶ一つきりの光が、オレの救いであり、示す道であり、また時に、オレを苦しめ焼き尽くす地獄の業火でした。 オレの生まれは大阪で父も母も生粋の大阪人でした。父は腕のいい医者として人々に厚く支持されており、そして母はその夫人として、優雅に上級の生活をしておりました。オレの家である”忍足家”は、関西では名の知れた名家であったのです。 オレは大阪で名門と云われる私立の小学校に通っておりました。そして中学は中高一貫の有名進学校へ進学し、忍足家の後継ぎとして恥ずかしくない学歴を身に付けること――― それが、オレが進まなければならない道でした。しかし、オレに定められたその一本の道が分岐する出来事が訪れたのです。 それは目標としていた中学への進学が決定して間もない頃でした。オレに東京の学校から誘いがきたのです。オレは趣味の一つとしてテニスをしていましたが、それが評価され、東京のテニスの名門校で活躍してみないかということでした。大阪の名門校に通うことをオレに示してきた父や母ですが、それには手放しで喜びました。自分達の子供が認められ、選ばれたことが素直に嬉しかったのです。 オレはテニスに対してそれほどの情熱を注いでいたわけではありませんでしたが、両親の喜びを無碍にすることは出来ませんでした。それに、まだ行ったことのない東京という土地には、何か惹かれるものがありました。 オレは誘いを受け、一人東京に進学することにしたのです。 東京に向かう日の前日、早々に寝ようとしていたオレの元に突然の来訪者がありました。それは謙也といって、オレと同い年の従兄弟でした。餞別でも言いにきたのかと思った謙也は酷く憤った顔をしていて、オレに近づくなり胸ぐらを掴みあげてきました。 「なんでや」 一言だけでしたが、オレにはそれが何を意味しているのかが、すぐに解かりました。 「アイツ、泣いとったわ」 アイツとは、オレがお付き合いをしていた女の子のことです。ショートカットのよく似合う、運動の得意な可愛いコでした。オレたちは小学5年生の時から付き合っていました。ですから、彼女とはかれこれ2年ほどのお付き合いでした。それなりに上手くやっていたオレたちでしたが、オレは彼女に、東京の中学に進学することを一言も告げずにいたのでした。 「言うても言わんでも、アイツは泣くやんか。同じや」 オレは酷いことを言ったと、自分でも思いました。しかし謙也は何も言い返しませんでした。ただオレの胸ぐらを掴んだ手に一瞬だけ力を込めると、すぐに突き放しました。そして来たとき同様、急に帰ってしまいました。 誰かに聞いたわけではありませんでしたが、多分、謙也はオレの彼女のことが好きだったのです。オレたちの好みはとてもよく似ていましたし、それにオレの彼女は、男の子にとても人気がありましたから。 結果的にオレは彼女を振ったかたちになってしまいましたが、彼女を嫌いになったというわけではなかったのです。ですが遠く離れてまで想いを保ち続ける意味が、彼女との間には見出せなかったのです。 オレは非常に飽きっぽく、また冷めた性格をしていました。小学生でありながら何人もの女の子と付き合った経験がありましたし、中には中学生や高校生など年上の女性もいました。オレは小学生にしては身長が高くて体つきもよく、顔も大人びていました。ランドセルが恐ろしく似合わないと、自他共に認めるほどでした。だからでしょうか、年相応だといえる彼女の無邪気さには、時々苛つきを覚えていたのは事実です。 しかし彼女を嫌いになったというわけでは、断じてなかったのです。でも彼女といても、恋愛にみられるという胸の高鳴りや、激しい情動は沸き上がってはきませんでした。 オレは冷めた性格をしていたわりに、ロマンチストでありました。母や姉の読む純愛の小説を借りて読んでは、自分も運命の相手を探し出すことを夢見ていました。 息も苦しくなるような想いに身を浸してみたいと、ずっと思っていました。 |
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忍足の手紙形式で(忍足の一人称で)この先続いていきます。 やっぱり忍足には東京に行ってもらわないと、話が進みません(笑) 050705 |