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変態ポエマー 01:僕の天使 & 02:ああ、君の存在は極上の罪だ 歴史が古く、学校としては珍しい近代西洋建築の校舎。そして歴代の生徒たちが残してきた数々の実績から全国的にも有名である、私立氷帝学園。 そこから少し離れた場所に位置する閑静な高級住宅街。 ここは本当に東京か?と疑いたくなるような家々が建ち並んでいる。 中でも一際目を引く広大な敷地に構えるのは、どこぞの宮殿を思わせる西洋大邸宅である。 その家の主である跡部氏は、大手証券会社の役員。奥方はそのサポート。そして彼らの一人息子・景吾くんは現在中学3年生。氷帝学園の中等部に在籍し、氷帝の生徒はもちろん他校生からも”帝王”と呼ばれ親しまれていた。 跡部景吾は学園まで、彼専用のベンツで向かう。 テニス部で部長を務めている跡部は、朝練開始時間の8時よりも30分ほど早く部室に行く。時間に厳しい性格であるので、車が門をくぐるのは毎朝きっかり7時であった。 通勤ラッシュに重なる時間帯であるが、跡部家が建つのは高級住宅街。周りのお家も会社の重役などを務められている方々であるため、こんな早い時間に出社するお宅はない。 そのため跡部家の御曹司が毎朝きっかり7時に登校するなんてことを知っているのは、健康維持のために早朝ジョギングに精を出す御老人方と、朝の早い犬さんのお宅の散歩当番の女中さん。そして・・・ 。*.・。・.*.。・+・。*.*・。.*・+.・*・.。. いつもの朝。 天気もよく、絶好のテニス日和である。 跡部景吾は自室のカーテンを開け放ち、青く広がる空を見て、にっこりとした。 監督から頼まれていた部の仕事もようやく昨日終わって、帰り道にはガットを張り替えてきた。今日は思う存分、ボールの感触を味わうことができるだろう。 そう思うと、口元がほころぶのを止められない。 気分よく朝食をとり身支度を整えると、いつものように運転手に声をかけた。 ちょうどその頃。 跡部家の門に2番目に近い位置にある街灯の後ろに、一つの影があった。 先ほどから跡部家の門と左手首にはめた腕時計を交互に見遣り、そわそわと落ち着きなくしている。 傍から見れば立派に”不審者”に分類される様子であるのだが、たまに通りかかる人はそんな人物を見ても不審がることはなく、寧ろ、 「おはよう、今日もお疲れ様」 などと気軽に声をかけて立ち去っていく。 対するその人物も、 「おはようさんです〜」 なんてにこやかに挨拶を返して、そしてまた街灯の影に隠れるのだ。こんな行動をとっても見咎められないくらい、その人物はご近所(跡部家の)と顔見知りになっていた。いわゆる朝の街灯の常連である。 彼の名前は、忍足侑士。 跡部家のおぼっちゃん・跡部景吾と同じ氷帝学園の3年生であり、そして同じテニス部に所属する男であった。 「・・・そろそろやな」 時計を見れば6:59。 忍足はごくりと息を飲んだ。 これまでに何度も同じ瞬間を味わっているが、やはりこの”運命の瞬間1分前”というのは非常に緊張するものである。 忍足は視線を時計から上げると、門を凝視した。 視線の先、ゆっくりと重厚な門が内側に開いてゆく。そして現れるのは、やたらと黒光りする磨かれた車。 (きた!) 視力はいいのだがどういうわけか掛けている眼鏡のブリッジをくいっと持ち上げて、忍足はベンツの後部座席左側をガン見する。 そこには跡部が乗っていた。 忍足が影を潜めている街灯は、車の進行方向とは逆の道にある。 車が門から出てから道路に入るまでのほんの数秒が、跡部の顔を見れるチャンスなのだ。それを見逃せば、あとは彼の後頭部を見送るだけになってしまう。・・・その後頭部さえも、忍足は喜んで見るのだが。 「今日もまた、朝からべっぴんさんやわ・・・」 あたたかいため息と共に呟く忍足の視線の先では、跡部が座り心地のよさそうなシートに身を沈めていた。 朝の光が跡部のブラウンの髪を、薄い金色に近く輝かせている。 シャワーを浴びたのだろう、それはいつもよりもしんなりと、サイドの髪のはねがおさまっていた。 「きちんと乾かさなあかんやん・・・ 言うたら、やさしく拭いたるのに・・」 部長さんが風邪でもひいたら大変だろう、と気遣ってみるものの。 風邪でうなされる跡部を、つきっきりで看病してあげるのも悪ないなぁ、とか。 親切なのかそうでないのか、しかし明らかに跡部にとってはよろしくないことを考え、忍足はまた幸せになる。 そうこうしている内に、跡部を乗せた車はすべるように道路に入り、彼の顔はみえなくなってしまった。 「ああー」 後ろの窓から覗く跡部の頭部は、光を浴びて金の髪が天使の輪を作っている。 艶やかなそれを眺めるのもよいが、でももうちょっと顔を見ていたかったなぁと、忍足は途中で妄想をはさんでしまった今日の自分を反省した。 しかし今日も朝一で跡部の顔を見ることが出来たと満足して、そろそろ自分も朝練に向かおうと気を取り直した。 そして、忍足が街灯の影から出ようとしたところで、事件は起きたのである。 いつもは無常にも忍足を取り残して走り去るベンツが、少し走った所で急に止まったのだ。 (! なんや?) 慌てて身を隠す忍足。 目を凝らしてみると、その原因がわかった。 顔見知りの犬なのだろう、それが跡部を見て、車に近寄ってきてしまったのだった。 犬はしっぽを勢いよくふって、体全体で喜びを表現している。 (オレにしっぽが付いとったら、もっと勢いよくふってみせるわ) 跡部の進路を邪魔する犬に燃え上がる怒りを感じて、忍足は早く犬が離れるように念を送った。 犬に手綱を引きずられるようにして、散歩をおおせつかった女中が姿を現す。彼女はぺこぺこと申し訳なさそうにしているが、顔は非常ににこやかである。 (―――― はよ去ね) 忍足にとって跡部に近づく人間は全て敵だ。犬以上の敵愾心を覚える。 犬と共に去れ、強くと念じる。 しかし、 (なんてことや・・!) 忍足の願いとは裏腹に、車の窓が開いたのだ。そしてあろうことに、跡部は窓から手と顔を出して犬を二度、三度と撫で、にこりと微笑んだのである。 (天使・・・オレの天使・・!) 予想外の展開に戸惑ったが、これは儲けモノだ。突然の眼福に狂喜する忍足。 だが、その幸せは長くは続かなかった。 「――― ッ!!」 (ああ・・・・・・跡部ッ?!) 直後、視線の先で繰り広げたれた出来事を。 忍足の優秀な脳味噌をもってしても、理解するまでにはしばらくの時間を要した。 「なんちゅうことや・・・」 うわごとのように呟くと、忍足はその場にへなりとへたり込んだ。 「オレの目の前で・・・他の男(オス)に唇を許すなんて・・っ」 信じられない・・ 信じたくない・・・ しかし己の視力を疑う余地は無い。(彼のメガネはダテである) 忍足の天使(=跡部)は、懐いてくる犬の顔を引き寄せ、こともあろうに、毛むくじゃらで突き出た人外生物の口に、その、形よく艶やかな忍足憧れの唇を惜しげもなく与えたのである。 (Shit!!) 相手からならまだしも跡部からキスを仕掛けたとあっては、誰も責めることなど出来ないではないか。 「跡部・・・」 いったいどこまで、人の心をかき乱すのか。 (オレの感じる喜びも悲しみも・・・全ては跡部、お前が運んでくるんやで・・?) 跡部・・・お前の顔を一目見るだけで、オレの心には薔薇が咲き乱れる。 そして跡部・・・お前がオレに見せつけるように他の奴と仲良くすると、千のナイフが胸を刺す! 今オレは、胸を掻きむしりたくなるくらいの悲しみと憤りに満ちている。 この苦しさも、跡部、全てがお前の所為なのだ。 (お前はオレの存在に気が付かんかったけど、オレはお前を見てるんよ?) 見られていないと思っていても、していいことと悪いことがある。 跡部、 そうやってお前は、無意識に人を傷つけているのだ。 お前に焦がれる者の存在になど、一向に気が付かずに。 そして相手の痛みなどこれっぽっちも知らずに、無邪気に傷を抉ってくる。 (跡部・・・) 罪を罪とも知らない、 なんて、罪深い人。 ああ、それでも。 狂おしいほどに愛しい人。 「お前の存在は・・・ 極上の”罪”やね・・」
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