少々グロイと思われるような感じの表現があります。また、忍足(文中”オレ”)がちょっとオカシイかんじです。
そのようなものが嫌いな方は避けてください。








繋がり






とても好きな人がいます。


オレは、その彼の泣き顔を、毎日のように見ていました。
彼の首筋に歯を立てて、白い皮膚を噛み千切るようにきつく跡を付けました。
無理矢理に楔を打ち込んで流血を楽しみ、赤い液体を舌先で舐めとっては屈辱に歪む彼の顔を恍惚として眺めていました。
オレは彼の血液がとても好きでした。彼の血はまるで上質なワインのようで、少量でオレに甘美な酩酊をもたらしました。
断っておきますが、オレは別に”ヘマトフィリア”というわけではなく、もちろん、”ヴァンパイア”なんてものでもありません。
それなのにどうしてこんなにも、彼の血を望んでしまうのか。それについてはオレも悩み、考えた時がありました。しかし答えは直ぐに見つかりました。
それは、オレが彼を心の底から愛し、欲していたからだったのです。


オレたちは世間一般に言うところの”セックスフレンド”という関係でした。
相手が男だろうと女だろうと関係ない、気持ちが良ければいい――― 性行為に関しては、オレたちはお互いにそんな価値観をもっていました。だからオレは男を抱くということに抵抗は無く、そして彼も男に抱かれるということにさして疑問を抱かずにいたのです。
彼とのセックスは最高でした。
オレが下を突き上げる度に白いシーツに散らばるブラウンの髪は夜の光を集めてきらきらと輝き、普段高慢な笑みを形作っている唇はだらしなく開いて嬌声をこぼし、快楽に溢れ出た涙が右頬についた泣き黒子の上をゆっくりと伝う。
オレは普段からは想像も付かないそんな彼の姿に夢中になり、その一つ一つにある種の感動を覚えていました。
彼とのセックスは最高だったのです。
オレは男で、快楽を得れば相手が誰であろうと生理的に勃つしイクことも出来ますが、彼はオレを心身ともに満足させてくれる稀有な存在でした。明るい日差しの中では帝王の如き威厳を有する彼が、夜の闇が落ちるとオレの下で脚を開いてよがり狂うのですから。これほどまでに征服欲を満たしてくれる相手は、他にいません。
そしてオレはいつしか、彼以外とはセックスをしなくなくなりました。
どんな相手としたところで、彼とする以上の快感は得られないと気が付いたからです。オレは日々怠惰に過ごしていましたが、反面、明らかに無駄だと思われることを敢えてするような、そんな時間の浪費は厭う性格でした。快楽を得るためにするセックスならば、彼とだけすればいいと思ったのです。

しかしオレは次第に、彼と身体を”繋げる”というこの行為に物足りなさとじれったさを感じるようになっていきました。
オレたちが行っているセックスというものはとどのつまり、開いている穴にモノを通す、ただそれだけの行為に過ぎないと気がついたからです。だからいくら彼を犯したところで、オレの内に新たに芽生えた”欲求”が満たされることはなかったのです。
何時の間にかオレは、彼を好きになっていました。
彼の全てが欲しいと思うようになっていたのです。

それを自覚してしまってから、オレは更に狂人の如く、彼を求めるようになりました。彼の全てをオレのモノにしたかったのです。
そしてオレは次第に、彼を傷つけるようになっていきました。それはオレが、彼と本当の意味で”ひとつ”になりたいと願った末の行動でした。
オレは、彼が絶頂で吐き出す遺伝プログラムを内包した白濁液を、彼の白磁の肌を裂いて流れ出る命の液体を、一滴たりとも逃すまいと身の内に摂り込みました。これが彼の一部であるのだと実感しながら嚥下する瞬間にこそオレは、満ち足りた喩え様の無い喜びを感じることが出来たのです。
オレの口に入り、喉を通って、胃に落ちる。そして吸収されて、彼はオレの血となり肉となるのです。

これ以上に、彼とひとつになれる方法があるでしょうか・・・?

彼は泣きました。
それが痛さからくるものなのか悔しさからくるものなのか、それとも悲しさからくるものなのか、オレには解かりませんでした。
オレは彼の涙を舌ですくい取って飲みました。しかし溢れる涙は止まることを知らず、いくら舐めても後から後から湧き出てきました。オレは飽くこと無くそれを舐め続け、同時に彼の身体を弄っては幾度も彼を犯しました。その間彼はずっと涙を零し続けて、その末に気を失って眠りにつきました。
そんな日が幾日も過ぎました。



ある朝。
オレはいつものように彼よりも早く目を覚まし、傍らで眠る彼を眺めていました。日が昇り始めた、東の空が明るくなった時刻でした。
オレはベッドを降りると窓へと近づき、薄いレースのカーテンを開けました。窓越しに見る広く澄んだ空に雲は一つも無く、とても天気の良い日でした。オレは窓も開けました。開け放たれた窓からは、外の冷たく清涼な空気が流れ込んできました。それはまるで、穢れを一掃していくもののように感じました。そして、彼をこの部屋へ住まわせてから、オレは一度も、窓もカーテンすらも開けたことがなかったと思い起こしました。

振り返ると、彼はまだ眠っていました。
彼の髪は朝日を浴びて金色に輝き、肌も光を放つように白く浮き立って見えました。
オレは彼に近づき、光る髪に肌に、触れようと手を伸ばしました。その時、彼が目を覚ましたのです。
長いまつげが震え、白い目蓋の奥から美しい蒼色が現れました。ぼんやりとしていたそれは段々と色を深くして、そして遂には、しっかりとオレを見据えたのです。

彼の視線のもと、言葉がするりと、口をついて出ていました。それは、オレにとっては今更だともいえる言葉でした。けれど、彼には違ったのです。
オレの言葉に、彼は笑いました。
愚者を蔑むようでもあり、しかし反面全てを赦し包み込むような。いかにも彼らしいといえる、まさしくオレが惚れ込んだ笑みを見せたのです。
そしてオレは気が付きました。オレは彼に一度も、想いを告げたことがなかったと。
オレはずっと、彼を愛していました。放心する様も歯を食いしばって耐える様も、射殺しそうに睨み付けてくる様子にさえぞくぞくと官能が走り、可愛らしく思えて仕方がなかったのです。
しかし今以上に、彼を愛しいと思ったことはありませんでした。


「・・・・・・愛しとるよ」

もう一度口にすると、彼はゆるゆると腕を伸ばしてオレの頬に触れてきました。オレは知らず涙を流していたのです。彼は親指の腹でオレの涙を拭い、慰めるようにオレの頬を撫でました。
オレはその手を握り込み、もう片腕で彼を力いっぱい抱きしめました。

「・・・ごめん、・・・・・・好きや、」

絞るように吐き出した謝罪と告白を、彼が聞き入れてくれたかどうかは解かりません。けれど彼は、繋げた手をしっかりと握り返してきました。
好きだと幾度も訴えながら、オレは縋るように、解けないように、きつく手を握り直しました。
合わせた手は熱を孕んで熱くなり、まるでそこから、ひとつに溶け合っていくようでした。
オレはこれまでの愚行を悔いながら、強く思いました。

もう、この、繋いだ手だけが離れなければいいと。







忍足のヘタレ脱却を試みて多少の強引さを付加しようとすると、途端に鬼畜になる。
どうすればいいんですか・・


ヘマトフィリア:血液嗜好症。血を好む体質で、精神的な原因によると考えられている。

050220



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