翼が無ければ






跡部がテニス留学をするという話を聞いたのは、跡部本人からではなくて。
宍戸とジローの世間話をテキトーに流していたときだった。


「――― ホンマなん?」

と驚いて詰め寄ったオレに、寧ろ宍戸の方がびっくりして、

「なんでお前は知らないわけ?」

と容赦のない一言を浴びせ掛けられた。
宍戸達の話しによると、彼らも跡部本人から打ち明けられたわけではないという。
音楽準備室(別名:タローの館)で跡部と監督が話しているのを、偶然(かどうかは怪しいが)聞いてしまった女子生徒がいたらしい。
その話は瞬く間に広がって、今や知らなかったのは学園中でオレ一人だったんじゃないか、という具合だそうだ。(周りの話をハナから聞く気がないのが、こんなかたちで露呈された)
いろいろな憶測が飛び交う中。
真意を確かめるべく、幼馴染’sである宍戸&ジローが立ち上がった。
そして直接跡部本人に確認したところ、噂は本当であったと発覚したとのことだ。

以上が、これまでの経過である。


そして今。

「遠慮せんと、じゃんじゃん食ってな」

部活後に自室に跡部を招いたオレは、ささやかながらも跡部を祝っている最中だ。

「てめぇに遠慮なんざするか。・・・つーか、料理できたんだな。意外だ」
「こう見えても得意なんよ」

スープをスプーンですくって優雅に口に運ぶ跡部の姿は、この部屋では酷く不釣合いだった。
跡部をこの部屋に招きいれた回数は数え切れないが、玄関先で押し倒さなかったことは皆無だった。此処ではずっと、ヤって寝ることしかしなかったから。
今のこの状況には、誘ったオレでさえ違和感を感じている。跡部は尚更だろう。
だから跡部の様子が不自然に思えるのか。
それとも。
自分がこれからのしようとする行為に、似合いもしない”罪悪感”なんてものを感じているからだろうか。


「おかわり、いる?」
「ワイン」
「ん」

跡部は肘までシャツをまくった腕を伸ばして、オレに空になったグラスを突き出した。オレはまるでレストランのボーイのように、恭しくワインを注ぐ。
グラスを満たしてゆく透明味を帯びた赤い液体は、明かりを反射して綺麗にきらめいた。
それを目の端に据えながら、オレはソファ脇に置いた荷物に目をやる。
デパートのロゴが入った大きめの紙バッグには、今日の食材と一緒に買ってきた、跡部へのプレゼントが入っている。
  ・・・喜んでくれるやろか
と考えて、すぐにオレは自嘲した。

喜ぶのはオレだけだなんてことは解かっているじゃないか。




「・・・忍足?」

訝しげに掛けられた声に、オレははっと正気に戻った。
何時の間にかワインはなみなみと注がれていて、もうグラスから溢れてしまいそうになっていた。
慌ててボトルを上げると、跡部もグラスをテーブルに置いた。そのときにグラスのワインが零れて、跡部の手にかかった。

「忍足、」

「拭くものをよこせ」と続くはずだったのだろうが、跡部がそれを口にするより先に、オレは無言で跡部の濡れた手を取った。そして口を寄せてそれを舐め取る。
跡部は驚いて手を引こうとしたが、それを許さず、舌先で形を確認するように指を一本一本口に含む。
(・・・甘い)
白く形がいい、美しい指だと、いつも思っていた。
指の先まで完璧だと。

どこまでも完璧で美しい 孤高な人だと。



「・・・どうしたんだよ」

くすぐったいのか、言葉に少しの笑いを滲ませて跡部が聞いてくる。
それには応えず、オレはちらりと紙袋に目を遣って、そしてまた跡部の指先に視線を戻した。
再び指先に口付けると、甲に、手首に、腕に、キスを落とした。
逞しいというわけではないが、綺麗に筋肉のついた長くしなやかな腕だ。

綺麗で、強い腕だ――― オレの好きな。



「――― 跡部。・・・オレ、お前にプレゼント買ったんや」

「ふぅん・・・よこせ」

「買ったんやけど・・・やっぱ、お前にはやらんわ」

「・・・・・・・・・」

「・・・スマンな」


バカな事を考えた。

でもオレはただ、お前と離れたなかったんよ。


抱え込むように抱きしめると、跡部は抵抗もなくオレの腕の中に収まった。
跡部は何も言わなかった。言わなかったけれど、きっとオレの考えなんて始めから読めていたのだろう。
プレゼントの中身だって、予想がついていたに違いない。
それなのに。
跡部はオレの誘いにのって、オレの部屋にのこのこついて来て、料理を食べて。そしてプレゼントをよこせと言うのだ。

オレよりテニスを選んだくせに。


オレは跡部の腕に手を這わせた。
ああ・・・ この2本の腕をもって、彼は世界へ羽ばたくのか。

オレの元を離れて。

オレを置き去りにして。






オレは、 お前の両の腕を切り落としてしまいたかった。







このサイトの忍足は、跡部様のことが本当に好きだな・・ァ
ちなみにプレゼントの中身は・・・××××・・とか

ヘタレなのに腹黒くて時々(?)危険思想に走る攻めが 好きです・・・
ごめんなさい

050428



<<