シャボン玉に包まれて






手の中のものを大事に落とさないように両手で包んで、でも急ぎ足で、ジローはいつもの場所に向っていた。
夏の昼下がり、お日さまがさんさんと輝いていたけれど、それよりももっと晴れやかな気持ちだった。



『けーごっ!』

いつもの場所に小さな姿を見つけて、ジローは大きな声で名前を呼んだ。
さるすべりの赤い花の下、木の幹に背中を預けて座っているのはこの庭の家の子。
名前はけーご。
天気がいいときは、いつもここで絵本を読んでいる。

けーごと絵本を読んでいる時間が、ジローは大好きだった。
ひらがなじゃない言葉で書いてある本をジローは読めなかったけれど、けーごが読んで聴かせてくれるのだ。
それはどこか遠い国のお話で、青い目と金色のかみの毛の王子さまとお姫さまがでてくる。
ジローは絵本のきれいな絵よりも、いっしょうけんめいジローにお話を読んでくれるけーごの顔を見ているのが楽しかった。けーごの瞳はお空のように青くって、かみの毛はお日さまみたいにキラキラ金色なのだ。

(お姫さまみたい)

お話を聴きながら、ジローはいつも思っていた。
一度そうけーごに言ったらけーごはとても怒ったので、それからはこっそり思うことにしていた。
けーごのお話を聴きながらジローは考える。
お姫さまには王子さまがいないとだめなのだ。けーごがお姫さまならば、ジローは王子さまに違いない。

(オレも大きくなったらかみの毛が金色になるのかな)

少し茶色いふわふわしたかみの毛をつまんで見て、ジローははやく王子さまになりたいと思っていた。



『けーご!』

ぱたぱたと近寄って呼ぶと、けーごは絵本から顔を上げた。
いつものようににっこり笑うかと思ったら、びっくりした顔をして言った。

『じろ、手がびしょびしょ!』

大事に持ってきたつもりだったけれど、跳ねるように走ってきたから、手の中のコップは中身がこぼれてしまっていた。
でもまだたくさん入っているから、大丈夫だ。

『なにそれ?』

『おかあさんがね、つくってくれた。ふたりであそぼう』

小さい手の中に収まるくらいの、小さな青いガラスコップには石けん水が入っている。
ポケットに入れていたストローを取り出して一本をけーごに渡したジローは、もう一本を石けん水につけて、ふうっと息を送りこんだ。

『わぁ・・』

けーごの歓声に、ジローは次々とシャボン玉をふくらました。
オレもやりたい、というけーごに、ジローはコップを渡して自分はさるすべりの木陰に座った。おでこにしっとりと浮かんだ汗をそのままにして、初めてのシャボン遊びに夢中になっているけーごを見る。
青いお空に、丸いシャボン玉がぷかりと浮かぶ。吹く風が、あっという間にシャボン玉を遠い空に飛ばして行った。

『きれい!』
『うん、きれい』

振りかえって満足げに笑うけーごに、ジローも笑って返した。

『どこまでとんでくのかな〜』
『神様のところ?』
『じゃあ、お願いごとをしたら、かみさまがきいてくれるかも!』

二人で並んでシャボン玉をふくらませた。何をお願いしたかは、お互いに内緒にして。
けーごはたくさんシャボン玉を作った。それらは上手に風に乗って、高く高く飛んで行った。
ジローは大きいシャボン玉を一つ作って、そっと空へと放った。それはゆっくりと高く上って行った。

『オレのお願いは絶対かなうぞ』

自信満々に言うけーごに、かみさまがかなえるより先にけーごは自分でかなえちゃいそうだな、とジローは思った。

『じろーのお願いもきっと大丈夫だぞ』

お日さまに照らされてキラキラ笑うけーご。
けーごが大丈夫だというなら、ジローは自分のお願いごともきっとかなうと思った。



  オレはけーごの王子さまになりたいです







ジローとけーごは小さい頃からずっと一緒です。
家はお隣同士なのですが、跡部邸はばかデカイので、ジローの家から跡部邸の門に辿り着くまで、5分くらいかかります。
けーごの家の庭の外れにはさるすべりの樹が植わっている小さな丘陵があって、そこは二人の秘密の遊び場なんです。幼稚舎が終わったら、いつもそこで遊ぶんです。(初等部からはそこに亮くんが加わります)
けーごはバスケットに詰めてもらったお菓子を持参していて、おやつに二人で食べていたら可愛いなぁ・・!(萌)

けーごの読んでいる絵本はイギリスのおばあ様が贈ってくれる物。けーごは幼いながらも既にバイリンガルですから、英字を見ながら日本語でジローにお話することができちゃうんです。(ドイツ語とギリシャ語は初等部に入ってから習得)
ジローは・・私、髪を染めているんだと思うんです・・。だって、金髪だけれど(中等部)眉毛が妙に黒いから・・・。 けーごのために髪を染めたと思うと―― 本当に可愛いなぁジロは・・!!(萌)

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